アブシンベル小神殿

エジプト南部、ナセル湖のほとりにそびえ立つアブシンベル神殿。その壮大な姿は世界的に有名ですが、アブシンベル神殿には大神殿と小神殿があり、今回はその中でも「小神殿」に焦点を当てたいと思います。
ラムセス2世が小神殿を建設した理由
アブシンベル神殿の小神殿は、古代エジプトの偉大な王ラムセス2世によって建設されました。しかし、大神殿が太陽神ラー=ホルアクティや自身を神格化する目的で造られたのに対し、小神殿は彼の最愛の王妃、ネフェルタリのために捧げられました。これは、エジプト史の中でも極めて珍しいことであり、王が自らの妃のために神殿を建てた例はほとんどありません。
小神殿の特徴
冒頭の写真のように、小神殿の正面には、6体の巨大な像が並んでいます。そのうち4体はラムセス2世、2体はネフェルタリを表しており、王と王妃がほぼ同じ大きさで彫られていることが注目すべき点です。通常、エジプトの神殿では王が圧倒的に大きく表現されるため、ネフェルタリの存在がいかに特別であったかがわかります。
神殿内部に入ると、壁には美しいレリーフが描かれており、ネフェルタリが女神ハトホルとともに神々に捧げ物をする場面が見られます。ハトホルは愛と美を司る女神であり、ネフェルタリが彼女に捧げられたことで、ラムセス2世の愛情の深さを感じ取ることができます。
小神殿に込められた思い
ラムセス2世は数多くの戦争を戦い、多くの神殿を建設しましたが、彼がネフェルタリに対して示したこの壮大な贈り物は、彼の人間的な側面を垣間見せるものでもあります。「彼女のために太陽は輝く」とまで称されたネフェルタリの存在は、ラムセス2世にとって特別なものであったことは明らかです。
アブシンベル神殿の小神殿は、ただの遺跡ではなく、愛と信仰が込められた歴史的建造物です。もしアブシンベルを訪れる機会があれば、ぜひこの小神殿にも足を運び、ラムセス2世とネフェルタリの絆を感じてみてください。