【アニメ考察】『チ。―地球の運動について―』(第16話)
2024年にアニメ化された『チ。―地球の運動について―』は、地動説を信じることが命に関わる中世ヨーロッパ風の世界を舞台に、「知の灯火」をつなごうとする人々の信念と葛藤を描いた作品です。
科学と信仰、理性と狂気、知識と死…重厚なテーマを丁寧に扱うこの物語は、全体を通して非常に密度が濃く、観終わった後に深く考えさせられるものばかり。
今回はその中でも、特に緊張感と哲学的対話に満ちた第16話「行動を開始する」にフォーカスし、その内容と背景、そして伏線についてじっくり考察してみたいと思います。
◆ アニメ「チ。」基本情報のおさらい
- 原作:魚豊(うおと)
- ジャンル:歴史×宗教×科学×哲学
- 放送:2024年春~
- スタジオ:マッドハウス
- 公式ジャンル:「知識をつなぐ物語」
『チ。』は、時代に抗って地動説という“真理”を追い求めた人々を描く、静かで壮大なドラマ。アニメ化に際しても原作の重厚さを損なうことなく、声優陣の熱演と音楽、演出が高次元で融合した作品です。
◆ 第16話「行動を開始する」あらすじ
前話から一気に時間は飛び、舞台は25年後。異端解放戦線の一員「シュミット」が拘束された状態で登場し、異端審問官マズルとの一騎打ちのような対話劇から物語が始まります。
彼らのやり取りは、ただの尋問劇ではありません。宗教、信仰、自然、理性といった根本的な“人間の信じる力”そのものをめぐる哲学的な応酬なのです。
シュミット「私は神が宿りしものを崇める。人の作ったものには興味がない。」
この台詞に象徴されるように、シュミットの信仰は教会という“組織的宗教”への否定と、自然にこそ神を見る「自然主義」的思想の表れ。やがて彼は「では、行動を開始する」と告げ、周到に準備された反撃を開始します。
実は彼が捕らえられたのは意図的なもので、彼の仲間たちは異端審問所に潜伏済み。一気に形勢を逆転させ、目的である“地下保管庫”のあるモノを奪取すべく行動に移ります。
◆ 深読みポイント①:シュミットの思想とスピノザの影
シュミットの思想は「神即自然(デウス・スィーヴェ・ナトゥーラ)」の考え方に近いとされ、これは17世紀の哲学者スピノザの哲学を思わせます。
スピノザは「神とは自然そのもの。自然の中に神を見る」という一元論的汎神論を唱え、教義を絶対視する宗教とは対極の立場をとっていました。結果、彼は無神論者としても批判される存在となったわけですが、その思想は宗教と科学の折り合いを考えるうえで重要な指標となっています。
シュミットのセリフ――
「私は君らのように神に祈り、答えてもらおうなどとは思っていない。いかなる運命であろうと、快く受け入れる。」
これは信仰の本質を問い直すと同時に、「人間が神を利用してはならない」というスピノザ的倫理観すら感じさせる台詞です。シュミットは教義の権威ではなく、自然という普遍的な存在に対してのみ謙虚である姿勢を貫いています。
◆ 深読みポイント②:思想のハウス(星座)での対比
本作では思想の“匂い”を占星術的に読み解くことも面白いポイントです。
シュミットのように「受け入れる」「流される」タイプの信仰は、魚座の象徴である12ハウス的。対して、マズルら教会組織の信仰は9ハウス、射手座的で、体系化された宗教や教義を重視するイメージ。
シュミットは「信じる」というより「受け入れる」ことを美徳とする。その姿勢は、たとえ捕らえられても「自分の運命を呪うことはない」という発言に表れています。これはまさに魚座的、包容の精神であり、運命にすら抗わない「柔らかな革命」と言えるでしょう。
◆ 深読みポイント③:「行動を開始する」―爆薬という変革の象徴
シュミットが語る“爆薬”という単語は、技術革新=思想の爆発を象徴しているようにも思えます。火薬は13世紀モンゴルからヨーロッパに伝わったと言われますが、それが宗教弾圧という形で制度を打ち破る装置として使われるのは象徴的です。
「諸君、爆薬を知ってるかな?」
という一言には、シュミットたちが単なるテロリストでないこと、彼らが“新たな知”を取り戻すために行動しているという強い意志が宿っています。まさに知の爆発。知識や思想が密やかに、しかし確実に広がりつつあることを暗示するワンシーンです。
◆ 最後に:第16話の“導火線”としての役割
この16話は、アニメ『チ。』全体の中でも非常に重要な転換点であり、物語の後半戦に向けた「導火線」のような役割を果たしています。
静かに、しかし確実に時代は動き出している。シュミットの「では、行動を開始する」という台詞は、思想が火薬のように爆発する瞬間の合図。その言葉通り、ここから物語は激動のフェーズへと突入していきます。
まだ視聴されていない方は、ぜひ第16話を集中して観てみてください。哲学、信仰、知識、運命。全てのテーマが凝縮された珠玉の一話です。
いかがでしたか?次回は、この異端解放戦線の“目的”にもう一歩踏み込みながら、科学と信仰の衝突について考えてみたいと思います。それでは、また!